晩夏にして君を思う

鹿児島旅行中、ドライブをしていたらラジオから「木綿のハンカチーフ」が流れてきた。


「この曲、あんまり好きじゃないんだよね」


私は、顔をしかめた。



都会に出た恋人の変化を否定して否定して、さすれば道も分かたれるろうに、いざ別れるとなったら、最後にやたら恨みがましい贈り物をねだるのが、激しい自己憐憫を押しつけてくるようで、イヤなんだよね。



あおちゃんは、ふ、と笑って「遠距離恋愛は難 しいってことだよ」と、かるくいってから、「私は知らないけど」と、私にいたずらっぽく会話を振った。



あおちゃんが、私の過去の恋愛に言及するのは めずらしいことで(基本的に彼女はあまりそういったことに興味がない)、その一言から、ふわっと思い出がよみがえってきた。



***


20代半ば~後半頃の、二年以上にわたる海を越えた遠距離恋愛は、たのしかった、とだけいったら、少し語弊があるだろうか。


恋人に、なかなか会えないつらさ、もどかしさは、もちろんあったし、ようやく会えても、すぐまた別れなければならず、その時の体の一部が距離にひきはがされていくようなしんどさには、何度も互いに涙した。


金銭的にも厳しかったので、なんとかやりくりしたり、マイルや株主優待券を駆使して、交通費や宿泊費を捻出する日々だった。


でも、毎日の電話と、月に一度程度の鮮烈な逢瀬の時間、そして、それ以外の時間は気兼ねせずに友人と遊んだり、自分の為に時間が使える、その生活のリズムは、実は、当時の私にはかなりフィットしていた。


あの頃の私は、遠恋に向いていた、といってもいいかもしれない。


***


「でも、遠恋は先が見えなくて、それがどうし てもしんどかったな」


「あー、なるほど」


***


遠距離恋愛生活に慣れ、辛さにも慣れ、リズムが出来てきた頃から、うっすらとした懸念というか、不安のような靄が、薄く、時に、濃く、「二人の未来」には、垂れこめていた。


この恋愛は間違いなくとても楽しい。
とても楽しいのだ、けれど。



その薄白い靄のようなものに形を与えるなら、


「……で、この先、どうするの?」


という言葉になっただろう。



私たちはみな、ひとつの「場所」に生きている。
「場所」に根付いて、葉を茂らせ、花を咲かせ、実を結ぶ。
その場所は、私たちの生活、すなわち人生の大枠を決める。


どうやって食べていくのか。なにを食べるのか。誰と笑って、泣いて、生きるのか。


仕事場があって、家族がいて、友達がいて、行き慣れた店があって、食べ慣れた食べ物がある。

そういう人や物の「間」で、私たちは形を為す。


場所が変われば、それらは基本的に、すべて変わる。



この恋愛という一つの関係を軸に、その全てをぐるりと変えるのか。変えられるのか。



そして、その軸がもしこわれたら、その時どうする?




結局、私は私の「場所」を捨てられなかったし、相手はその「場所」で咲く花のようで、どこまでも青い空と透明な海とあたたかな空気が満ちるそこから引き抜いてしまっては、生きていられないような人だった。


それは、別れの直接的な原因ではなかった。

けれど、ずっとその靄がつきまとっていたことは、その関係を続けられなかった遠因ではあった。

私はその靄について、ついに相手と腰を据えて、話し合うことはできなかった。


***



「もう、出来れば、遠恋はしたくはないなー」



「私がもし東海に帰っちゃったら、あんまり東京にはこなそうだしね」



本当に、その通り。






だから、なおさらに実感するんだろう。

あおちゃんが、今は離れている、生まれ育った愛する「場所」に居続けたなら、私たちは間違いなく出会わなかったことを。

彼女が仕事によってこの場所に来て、出会って、一緒の場所に根を張って、日々の生活を築いていける、この「二人の未来」をクリアに考えられる今が、本当に本当にしあわせだということを。



関係をはじめて、丸二年が経った、この晴れた日に。




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コメント

うちも始まりは遠距離でした

もう11年前になりますが 私 大阪 うちのカノ 宮崎県 での 遠距離で 2~3ヶ月に一度 行ったり 来たりを 約2年間してました

ある時 ふと カノが 宮崎県から 出たい

私 気軽に 大阪に来れば て

そうかんたんに 引っ越しては 来れないと思ってたんですがぁ~

その2ヶ月後くらいに 大阪に来た時に 住む所を決め 勤め先に退職願いを出し
その2ヶ月後には 大阪に住み始めた 行動的な カノ と 一緒に住みだして 早 8年 (笑)

なんの 覚悟も責任感もなく カノジョの人生に 大変革をもたらしてしまった 私


思慮深くない いきあたりばったりな 私に 色んな意味での 自覚をもたしてくれた カノジョの 大変革は カノジョにとって 凶とでるか 吉とでるか

死に際に あぁ いい人生だった と お互い 言って いきたいもんです
  • 2012-09-06 12:42
  • URL
  • チャン可愛 #-
  • Edit

>チャン可愛さん

おー、そうだったんですね!

恋人っていう遠距離はやっぱり遠距離のままで永遠に続くことは、とても難しくて、大体は、どこかで近くになるっていうことが必要な気がします。
勿論万人にあてはまることではないのでしょうが。

いまチャン可愛さんのカノジョさんが幸せそうならば、もうすでに「吉」って答えは出てるんじゃないでしょか。
  • 2012-09-07 00:11
  • URL
  • ヨコ #-
  • Edit

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