私のカミングアウトレターズ-4

私が実家に帰ってくることを、両親はいつも、とても喜ぶ。

一日前から当日にかけて、何通もメールが入る。


美味しいものを食べさせよう、食べにいこう、
いつ家につくんだ、駅につく時間に迎えにいく、
教えてほしいことがある、直してほしいものがある、
これをもってゆけ、あれをもってゆけ。


駅について、迎えに来てくれた母親と昼御飯の買い出しをする。
道中はたわいもない、いつもの話。

話の合間にお父さんはいるの? と、聞いたら、
うん、家で待ってるよ、と母親。

胃が緊張でぎゅっと縮む。

家について、昼食の準備をしていたら、2階から父親が降りてきて、
のんびりと「なんか話があるんだって?」と、私に声をかけた。


うん、そういったんだけどね。


話すつもりだったんだけどね。



話すのならば、これほどおあつらえ向きの聞かれ方はないのに、
弟との約束にせきとめられて、私の口はどうしても重くなる。


なるべく、改まらないでほしい。
なんとなく話をするから、
なんとなく流してほしい。


取り急ぎは、まーまーまーと流し、三人で昼食をとる。

父親からも、携帯やパソコンについて、なにかと聞かれたり、直したり、
食器の片付けをしながら、夏の家族旅行の予定について話したりする。

あまりにいつもの日常風景に、このまま、なかったことにならないかなと、
身勝手にも思いはじめた頃、ひとつの会話の流れが、ふっと途切れた。


「さて、お前の話を聞くよ」


父親が、まっすぐに私を見た。


「話があるっていうか……」

言い淀む。
あんなに考えていた筈なのに、なめらかに言葉が出てこない。
つっかかりながら、話し始めた。


 -自身の伴侶を得て、家族を作っていく気はあること。

 -そして、いま付き合ってる人も、いること。


つきあっている人がいる、といった冒頭の瞬間、
「男の人よね?」と、間髪いれず、母親がはっきりとそう聞いた。

息が詰まった。母親は想像もしてない、といった弟の言葉が頭をよぎる。
そんなことはなかった。母親は、たぶんずっとこのことを恐れていた。
うまく反応できず、その問いにイエスともノーとも言わず、
曖昧に笑ったような顔で、話を続けた。


 -けれど、結婚したり、子供を産むつもりはないこと。

 -ただ、子供を産まない、と、言い続けているのは、それはなにか、
  自分が育てられた環境でトラウマがあるというようなことではなく、
  私は、私の生育環境にとても満足し、感謝していること。



「まだ、紹介するとかいうタイミングではないんだけど、
 そういう相手はいて、私はその人と年を取っていくつもりです」

そう締めくくった私に、半分くらい納得のいったような、いかないような顔で、
けれど、それ以上は突っ込んでこようとはしない母親を前に、
このまま一旦話を終息させられないかと、淡く期待した私にむかって、
父親が、口を開いた。


「付き合ってる人がいるのに、なんで結婚しないんだ?
 まだ付き合って短いから、というのも、わからないでもないが、
 お前の言い方は、そうは聞こえなかったよ」


あんまりにもまっとうな問いに、完全に私の言葉が止まる。

黙る私に、父親が語りかける。


「俺は、お母さんと違って、お前に結婚した方がいいとか子供を産めとか
 言うつもりは一切ない」

「一切ないが、付き合ってるひとがいるなら、結婚した方がいいだろうと思う」

「……まあそれもなんでいいのかと聞かれたら、わからないが」


答えあぐねて、くるしまぎれに、質問を質問で返した。

「……なんでお父さんは結婚しろとか子供を産めとは思わないの?」


「結婚や子供を産むっていうのは、一種の偶然に類することだろう。
 するにせよ、しないにせよ、幸せもあれば、不幸もある」

「そういう「一つの形」に、「幸せ」を求めたら苦しい。
 この形が幸せだ、とお前に強いるつもりはないよ」



その言葉は、私にとってほとんど、感動的、といってよかった。


同時に、ああ、これは「詰み」だ、と、頭の中で声がした。



にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

ヨコ

Author:ヨコ
どたばた働き、美味しいご飯をぱくぱく食べ、5歳上の彼女とのお付き合いはのんびりまったり、一緒に楽しく暮らしております。

ランキング・コンタクト

ランキングに参加しています

メールフォーム

メールはこちらからどうぞ~。

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム